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大連レポート

○靖国問題発生後に期待すること

2014-01-26

 12月26日の安倍首相の靖国神社参拝以来、中国の各メディアは、アメリカをはじめとする各国の反応も含め、一斉にこの問題を取り上げ、連日のように報じていた。日系企業の事務所が集中し、当事務所も所在する大連森ビルでは、万が一のため、24時間体制で公安(警察)の車が待機しているが、現段階で目立った問題は起きていない。日中の政治的摩擦が起こるたびに、心配することは日本製品の不買運動に関係する動き。2012年の尖閣問題発生時には、一部破壊活動にまで及んだ出来事をどうしても思い起こしてしまう。
 そのような中、中国国内で影響力のある有名ブロガーとして選出されたこともある信力建氏が今月4日に発表した文章は大変興味深い。同氏は、この文章の中で、安倍首相の靖国神社参拝を痛烈に批判する一方で、これに関連した日本製品の不買運動に対して、時代遅れで愚かな行動であると皮肉を込めて警告している。日本製品の不買運動は、両国摩擦のたびに発生してきた問題で、約百年前の20世紀初頭から始まった、長年にわたる問題でもあるという。しかし、現在のようなグローバル時代では、百年前とは全く状況が違うと指摘している。多くの製品で多国籍化が進み、重要な部品や知的財産等は日本関係で占められ、現実には、高度に精密化した製品にあっては、どの国の製品であれ、多くの日本製が隠れて内在している。自動車産業など、安全性や省エネ技術で革新的技術が求められる中、高い技術力を誇る日本製品をボイコットし、いわんや破壊することは、時代錯誤そのもので、結局は中国国民を傷つける野蛮な行動であると断じ、商品を受け入れるか否かは、消費者の選好を反映する市場が決めるべきと主張している。まさに良識ある意見で、多くの中国の方々がすでに気付いている問題でもあろう。
 さて、ジェトロ大連事務所によると、昨年8月以降、事業見直しや撤退を視野に入れた相談が増加しているという。東芝がテレビ事業見直しの一環として、昨年末に大連工場を撤退したというニュースはその典型的な例で、そのほかの企業でも、事業縮小に伴う地元従業員の大幅削減や日本人駐在員の帰国は最近よく耳にする話である。実際、地元メディアの報道はないが、先日も工場閉鎖に関係すると思われる騒動で、地元開発区の管理当局前に関係者が大挙して集まる様子を見かけた。
(関係者が開発区管理当局に集まる様子:直接の因果関係不明)
 確かに、物価上昇、人件費高騰、さらに急激な円安が加わり、多くの日系製造業者が苦境に陥っていることは事実である。特に取引内容が日本本社や日系顧客と密接に繋がっている場合は、売上収入が円ベース、経費が人民元となるケースが多く、二重三重の逆風にさらされていることになる。大連市政府は日系進出企業のこのような状況を踏まえ、外資企業の更なる負担増に直結する外国人の社会保険加入制度の実施見送りを事実上継続させる公算が高いとの噂が流れている。
 一方で、この苦境を、中国内販拡大への注力、自働化無人化によるコストダウン、中国人幹部の起用による経営の現地化等の企業努力で乗り切ろうとしている企業は多く、決して悲観論ばかりではない。今月15日に在瀋陽日本総領事館主催の「中小企業懇談会」に出席したが、様々な業種からの参加者があったこともあり、苦しい現状を伝える声が多い反面、拡大する中国市場を捉えたビジネスを順調に展開させているという明るい声も聞かれた。また、少子高齢化社会の到来を踏まえた老人介護ビジネスの事業化、環境ビジネスなど中国の成長企業と高い技術を持つ日本企業とを組み合わせる投資ファンドの設定等、今後の成長分野として認知されているビジネスが、既に実行の段階に入っていることを覗わせる内容もあった。 日中間の政治的摩擦が長期化し、関係改善の兆しが全く見えない中、「政経分離」「政冷経熱」が日中ビジネスの暗黙の了解として、今後とも日中双方で継続していくことができるように期待するしかない。(わ)