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大連レポート

○留学生誘致の背後にある現状

2015-10-28

 先月下旬、大連大学で日本語専攻の4年生を対象に県内企業系列の大学院大学への留学生募集を目的とした特別講義が開講され、「新潟県と中国との交流」と題して講演を行った。大学4年生、つまり、1990年以降に生まれた「90後」世代の学生、家族の愛情を一身に受け、裕福な環境で育ったデジタル世代、スマートフォンを自在に操り、自己の判断基準を大事にする個性派の若者と期待したが、会場からの質問はなく、随分おとなしい真面目な学生の集まりという印象を持った。
 中国人留学生の募集誘致に係る支援は、当事務所に寄せられる相談として、毎年、一定の件数があり、その期待感は強い。少子化が進行し、日本の高等教育機関(大学、短大、高等専門学校等)は自国の学生以外に、外国からの留学生を広く集めることは今後とも大変重要になってくる。優秀な人材をできるだけ多く取り込みたいニーズもさることながら、外国からの留学生で一定の学生数を確保したいとする学校経営上の理由も透けて見える。中国人留学生は、アジアの中で経済的に比較的余裕がある富裕層の学生が多く、日本の受入教育機関にとっては安定した“お客様”となるケースが多い。アルバイトしながらの苦学生といった一昔前の中国人留学生のイメージとは程遠い学生像、すなわち、親からの仕送りでアルバイトなしで経済的にゆとりのある留学生も多いと聞く。
 さて、これら中国人留学生の中国での就職戦線はどうなっているのか?日本語人材の豊富な大連、ここ数年の日系企業の景気後退等の影響で、日本語人材の募集人数は減少の一途、完全な供給過剰となり、少ない募集人数に高学歴の日本留学経験者が殺到するような状況になっている。海外の大学を卒業して帰国する、いわゆる「海亀族」は、海外各国の留学生に対する大学卒業後の在留条件が厳しくなる中で、今では大量に帰国してくる事態、一昔前の引く手あまたの状況が一変し、いわゆる「海帯族(波に漂う昆布のように、厳しい就職戦線で右往左往する海外帰国組)」と揶揄される現状にあるとの報道が印象に残っている。
 高い経済成長にも減速が見え始め、毎年増加し続ける中国の大学生の就職難は年々厳しさを増している。その根本原因として大学生の数の増加が著しいことが挙げられる。先般、「新潟杯」日本語演劇大会と銘打ち、黒龍江省内20の大学から日本語専門の学生が集まり、工夫を凝らした素晴らしいイベントとなったが、その会場となるハルビン師範大学の広いキャンパスには大変驚かされた。

同大学、もともと以前は、市内の別の場所に小じんまり立地していたが、郊外(松花江北)移転の上、広い敷地面積を有する規模に拡大していた。大連でも、既に多くの大学が郊外移転により規模拡大しており、中国各地でこのような大学の大規模化が進んでいる。計画経済時代の中国の大学生は国家の幹部候補生、学費や生活費は無料で、国からの手当が交付される学生もいたとか。今の大学は国家機関に変わりはないが、授業料徴収が普通で、大学の運営上、国からの補助金以外の足りない部分を大学自らの工夫で運営資金を集める必要があり、学生からの授業料収入や大学自身のビジネスにも依存し、学費の値上げとともに学生数の増加は避けて通れない構造に陥っている。2015年の大学卒業生は昨年より22万人増加で過去最多の749万人、1998年との比較で実に7倍までの増加、日本の大学新卒者が60万人程度であることを考えれば、その多さが想像できる。産業構造の変化により第三次産業就業者数が増加傾向にあるとはいえ、社会的に必要とされる大卒者の数にも限界があり、とても吸収できていない。インターネット関連大手の百度(バイドウ)は社員数約5万人、今月から従業員に「中途採用の停止」を通知、アリババは社員数約3万人、毎年3千人程度を新卒採用してきたが来年からは400名程度にするとの発表があったとのこと。インターネット事業の急激な拡大にも一段落の兆しが見られる中、ますます悪化する就職難、これに伴う就職浪人の増加に歯止めがかからないと危惧されており、社会の不安定要素として浮上している。(わ)