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大連レポート

○中国市場で「売れる」ということ

2015-12-30

 12月は業務の巡り合わせから、ハルビン、長沙、南京、上海の旅行社を数多く訪問する貴重な機会を得た。周知のとおり、訪日観光客の急増は、地域ごとにその増加幅に違いはあるものの、どこも共通した現象であり、海外旅行を取扱う旅行社にとって、訪日旅行商品は、まさに「売れる」看板商品となっている。折しも、春節用の商品募集の時期と重なり、どこの社も活気に満ちた雰囲気に包まれており、収益機会をしっかり確保しようとする積極的な姿勢が感じられた。
 特に印象に残っていることは、12月14日に湯沢町観光プロモーションの一環で南京を訪問した際、地元旅行社向けの説明会終了後に開催された懇親会の席上、来賓参加していた駐新潟総領事館の前総領事(現江蘇省僑務弁公室主任)の王華氏からいただいた応援あいさつ。程永華駐日中国大使が毎年のように好んで訪れた湯沢町のスキー場でのエピソード、日中友好の象徴「朱鷺」に関係する佐渡のPR、東日本大震災発生時に多くの中国人を新潟経由で緊急帰国させたときに寄せられた県人との友情、さらには未来志向で目指す日中友好への熱い思いが語られ、参加する旅行社の方々から自然発生的に拍手が湧き起こり、日中双方の多くの参加者の心を強く打ち、私自身も実に感慨深く、同時に爽やかな気持ちにもなった。
(王華氏を囲む湯沢町長ほか訪問団の一行)
 一般に、訪日観光客向けの旅行説明会は、地元観光地に精通した日本人担当者が「売りたい」観光スポットや自慢の郷土料理等のセールスポイントを工夫しながら説明することが基本となるが、一方で、当該観光地を熟知している中国の方から、その人の視点で、中国市場において「売れる」観光地の魅力を自分の言葉で語ってもらうことほど説得力のある言葉はなく、最大級の応援をいただいたものだと今さらながら痛感している。
 そして、その次の週、別のミッションで上海の旅行社を数社訪問したときのこと、新潟への送客実績でトップクラスの某旅行社の担当者から、「新潟県の招聘事業で、今年の夏に県内の観光地などを幾つか紹介してもらったが、残念ながら、長岡の花火以外はほとんど印象に残っていない。冬の新潟の魅力を体験できる場所やイベントを紹介してほしい」との辛辣な意見を耳にした。もちろん、この意見は当該旅行社の担当者の一人が感じていることに過ぎず、けっして招聘した全ての参加者の意見を代表した内容ではないが・・・。同時にその発言を聞いていて「またか」という感覚を抱く、日本側が「売りたい」と思うものと中国側が「売れる」と感じているものとのギャップ。
 実は、中国市場で日本の商品を販路開拓しようとするビジネスの世界で宣伝活動をする現場で、たびたび同じような場面に遭遇する。中国で自社の商品を「売りたい」、この熱心な姿勢は、ややもすると、自分の商品を「売る」ことばかりに頭が一杯となり、何が中国市場で「売れる」のかを分析し、中国の商売人がどんな条件で何を欲しがっているのかを研究する姿勢が往々にして後回しになってしまう。誰しも「売りたい」とは思うが、「売れる」とは限らない。日本の商品は安心安全で高級なイメージがあり、物珍しさもあるため、多少の販売実績は出てくるかもしれない。しかし、本当の意味で利益を生み出すほどの事業規模にするには高いハードルが待ちかまえているのが現実。実際、中国の商売人に「売れる」と認めてもらえるような商材であれば、日方が黙っていても、自らが持つ人脈や経験をフルに活かして、必死に販路を開拓する努力をしてくれるだろう。そもそも、中国の流通経路や商習慣はとても複雑で、外国人の手に負えるものではなく、日本人が単独で入っていけるようなものでもない。主役である中国の商売人たちに本気になってもらい、彼らにたくさん儲けてもらう、これが中国市場開拓の原点であり、その儲けの一部を日本側にも分けてもらうぐらいの発想を持つこと、中国という他人の庭でビジネスをする以上、それぐらいの姿勢で臨むことが大前提・・・まさに言い得て妙、知り合いのビジネスマンから聞いた一言を思い出した。(わ)