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大連レポート

○日中間の観光客動向に関する転換点

2014-07-08

 日本政府観光局(JNTO)によれば、2013年9月以降、中国からの訪日観光客(月別)が過去最高を更新し続け、2014年4月の中国からの訪日観光客は190.6千人、逆に、同年同月の日本からの訪中観光客は194.1千人(出典:中国国家旅遊局)まで落ち込み、ついに、訪日客数とほぼ同数の水準となり、日中間の観光客動向が転換点を迎えつつあることがわかった。日本からの訪中観光は強い逆風にさらされており、日中間の政治問題に加え、PM2.5大気汚染を筆頭とする環境問題、食の安全など、中国のイメージ悪化を助長させる要因が多分に影響しているといえよう。一方、中国からの訪日観光はビザ発給条件の段階的緩和、円安による割安感等のプラス要素が、日中間の政治的摩擦等のマイナス要素を上回る形で推移していることが容易に想像できる。近年の旅行形態は、一頃の団体旅行中心の時代から個人旅行にも裾野が広がり、東京、富士山、大阪、京都といった定番の観光地以外の多種多様な訪日観光を期待する層が着実に増えている。
 そのような中、先般の「北京国際観光博覧会」(6月27~29日)において、当県、福島県及び茨城県はクレア北京事務所と共同でブースを設け、日本海から太平洋に跨る広域観光ルートを提案した。当県を含む3県のほかにも、多数の自治体が競うように出展しており、ゆるキャラ登場、ノベルティーグッツの配布など、旺盛な訪日観光需要を取り込もうとする出展自治体のあの手この手のPR活動は、やや過熱感さえ感じさせる雰囲気を醸し出していた。
(太田国交大臣が博覧会で当県ブースを視察する様子)
 さて、個人的にここ数年で強く感じることは、中国の都市部若年層にとって、訪日観光が急速な勢いで身近になっているということ。中国版SNSの微博及び微信等により最新の情報が大量に配信され、興味があれば、携帯電話から即座に情報をキャッチできる時代。日本各地の個性豊かな特産品や流行ものを扱うショップ、地方色豊かで新鮮な食材を揃える居酒屋など、細かい具体的な情報を求める声が一層強くなってきていると感じる。最近では、日本製の化粧品や美容関連商品などの値ごろ感もチェック済という女性も多く、「周りに、観光や仕事で日本に行く友達がたくさんいるので、頼めば欲しいものは簡単に手に入る。ネットショップを利用しても高くない。」との言いぶりは、中国の都市部若年層の実態を如実に反映するコメントそのもの。
 一方で、減少の一途をたどる日本人の訪中観光の影響で、中国の旅行会社の日本語ガイドは苦境に立っている。彼らは、基本給プラス歩合制の給料形態をとっているケースが多く、日本人観光客の減少はそのまま自らの収入に直結するからである。アカシアが咲く頃の大連、以前は日本人団体ツアーで大いに賑わっていた記憶があるが、近年は日本人団体ツアーと思しきバスを街中でほとんど見かけなくなった。折しも、日本から中国への投資環境の悪化による日本語人材の雇用減も重なり、このままの状態が続くと、中国人の日本語学習熱が急速に冷めていくことを懸念する。学生の修学旅行や研修旅行を中心とする青少年交流事業は、残念なことに、国同士の政治問題に大きな影響を受けるため、減少こそすれ、大きな増加は期待できないだろう。また、中国国内の高級ホテル(四星、五星)への悪影響も大きく、特に日本との関係が強い大連では大変厳しい状況が続いている。これは、観光客の減少だけの影響ではなく、いわゆる「政府の贅沢禁止令」に端を発する宴会・料飲収入の減少が重なっており、今後も暫くは厳しい状況が続いていくことだろう。中国は、悠久の歴史を背景とした世界遺産を数多く抱え、多民族が多彩な文化を色濃く放つ地域であり、世界有数の観光資源大国でもある。多くの日本人の心の中に、このような特徴があることを忘れ去ってしまっているかのようである。(わ)